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ドコモ・モバイル・サイエンス賞

移動通信・情報通信の研究開発等の業績に対する褒賞事業

Winner / Ceremony

第11回(2012年)

第11回ドコモ・モバイル・サイエンス賞 授賞式

ドコモ・モバイル・サイエンス賞は、情報通信技術および移動通信技術の発展と、次代を切り開く意欲的な若手研究者の育成に寄与することを目的に、2002年に創設し、今年で10周年を迎えました。

本年は、34件の応募を厳正に審査した結果、「先端技術部門」と「基礎科学部門」の2部門において優秀賞、「社会科学部門」において奨励賞の受賞者を選出し、2012年10月19日(金)に東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京にて授賞式を開催いたしました。

授賞式に先立ち「変わらなきゃ、これからの日本」と題し、評論家・公益財団法人大宅壮一文庫理事長の大宅映子氏による記念講演を行いました。

また、授賞式には文部科学省 研究振興局 局長の吉田大輔様、NTTドコモ 代表取締役社長 加藤薫様をはじめ、多くのご来賓、関係者の方々にご出席いただきました。

先端技術部門の受賞記事です

優秀賞話し言葉の音声認識に関する研究開発

京都大学 学術情報メディアセンター 教授

河原 達也(カワハラ タツヤ)氏

授賞概要

現在、国内の研究機関で最も一般的に使われているオープンソースの音声認識ソフトウェアJuliusの設計・開発・普及に主導的な役割を果たした。また、世界初となる国会(衆議院)の会議録作成のための音声認識システムの導入に貢献した。衆議院の音声認識システムは、人間同士の討論を対象にしている点で、従来の人間対機械(携帯電話、カーナビ、ロボット等)での音声認識よりレベルが高い。明治以来の手書き速記制度を転換したという点では、社会の進歩・変化に貢献したと評価できる。

授賞理由

河原氏は、現在研究機関において最も一般的に使われているオープンソースの音声認識ソフトウェアJuliusの設計・開発・普及に主導的な役割を果たすとともに、世界初となる音声認識を用いた会議録作成システムの国会(衆議院)への導入に貢献した。

Juliusは国内の研究機関では音声認識ソフトのデファクト的存在で、国外でも広く使われ、企業もベンチマーク対象にするものであり、類似のものは他にないと思われる。

また、衆議院の会議録作成のための音声認識システムは、人間同士の討論を対象にしている点で、従来の人間対機械(携帯電話、カーナビ、ロボット等)での音声認識よりレベルが高いものである。諸外国を含めて実際に国会に導入された事例は他になく、明治以来の手書き速記制度を転換したという点では、社会の変化、進歩に貢献したと言える。今後、字幕を付与できるレベルにまで音声認識技術が発展すれば、聴覚障がい者や高齢者、外国人に対する情報保障の手段として期待される。

音声認識に関するトップレベルの国際会議(IEEE ASRU)を日本に誘致するなどの貢献も認められ、その成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞先端技術部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。

受賞者の言葉

河原 達也氏

京都大学は、情報通信分野においても先端的な研究を積み重ねてきた。1962年には世界に先駆けて音声タイプを開発した歴史がある。それから約50年の研究を経て、ようやく2011年に衆議院で音声認識システムが運用されるに至った。これには多くの方々の貢献があった。今後は、人間同士の会話と同レベルまで伝達力を高めることを目ざして、研究を続けていく。ことばは文化そのものであり、日本語の音声認識の研究は日本でしかできない。一層のご理解とサポートをお願いしたい。

基礎科学部門の受賞記事です

優秀賞スピン流の基本現象の発見とスピン流物理の構築

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授、
東北大学 金属材料研究所 教授、兼 日本原子力研究開発機構 客員グループリーダー

齊藤 英治(サイトウ エイジ)氏

授賞概要

スピン流から電流を生み出す「逆スピンホール効果」を発見して、スピン流検出を可能にした。また、電流を通さない絶縁体だがスピン流は伝導する物質群「スピン伝導絶縁体」、新しい発電原理「スピンゼーベック」効果を発見するなど、スピン流に関する基本現象を次々に発見・解明して、電磁気学の新たな法則となる「スピン流基礎科学」を構築した。スピン流はエネルギー損失を抑制することが可能で、量子情報を担うこともできるため、次世代省エネルギー電子情報技術の担い手として注目されている。

授賞理由

齊藤氏は、「逆スピンホール効果」の発見によって、これまで困難であったスピン流検出を可能とした。また、絶縁体であるにもかかわらず、スピン流を伝導する物質群である「スピン伝導絶縁体」、全く新しい発電原理である「スピンゼーベック効果」を発見するなど、スピン流に関する基本現象を次々に発見・解明することでスピン流基礎科学を構築した。

スピン流の検出原理を発見し確立したことは、その後の世界のスピン流科学の原点となっている。また、齊藤氏自身がその後の研究によりスピン流基礎科学の学問形成を主導。発見したスピンゼーベック効果を活かした環境発電(エナジーハーベスティング)等の応用研究開発が行われている。

齊藤氏がNatureをはじめとする論文誌に発表した主要成果は、5年間で77件に上り、国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の若手科学者賞、日本IBM科学賞、日本学士院学術奨励賞、日本学術振興会賞などを受賞している。

スピン流の基礎科学は電磁気学の新たな法則と位置づけられる。学問的貢献、体系化、が多いに認められ、将来性もあると思われる。その成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞基礎科学部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。

受賞者の言葉

齊藤 英治氏

電子は常に自転している。この自転はスピンと呼ばれ、電流に対応した「スピン流」も存在するはずである。しかし200年におよぶ電磁学の歴史のなかで、スピン流の物理法則は研究されていなかった。最近になって、ナノメートルサイズの粒子を操作する技術が登場して、スピン流を解明できるようになった。当初は、物理学の視点からスピン流の生成・抽出手法を追い求めたが、今後は「社会に役立つ」という要素も意識しながら研究に取り組んでいきたい。

社会科学部門の受賞記事です

奨励賞電子商取引および電子決済の消費者受容行動に関する研究

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授

岡田 仁志(オカダ ヒトシ)氏

授賞概要

商品やサービスの持つ複数の要素の消費者への影響を解析するマーケティング分析手法であるコンジョイント分析を、ネット・ビジネスにおけるユーザーの受容行動調査に取り入れ、電子決済・電子商取引における利便性と不安要素のトレード・オフ効用関数をモデル化した。理論モデル確立にあたっては、東アジア・東南アジアの研究者を中心に構築した国際共同調査により、電子商取引における消費者の行動が、電子商取引の成熟度、文化、国民性、法制度など、複数要素の影響を受けることを実証した。

授賞理由

岡田氏は、ネット・ビジネスにおけるユーザーの受容行動調査にコンジョイント分析の手法を取り入れ、電子決済・電子商取引における利便性と不安要素のトレード・オフ効用関数をモデル化した。

コンジョイント方式を用いた調査・分析については、先行研究でその有効性が実証されているが、電子決済・電子商取引についてのコンジョイント分析は、これまでなかったものである。岡田氏は、電子商取引における消費者の行動が、電子商取引の成熟度や文化、国民性、法制度などの影響を受けることを、東アジアや東南アジアの研究者を中心に構築した国際共同調査により実証し、消費者受容行動に理論モデルを確立した。

岡田氏が提案したトレード・オフ効用関数モデルは、一般化された説明モデルとして学術書に掲載されるなど、広く認知、評価されており、学術的貢献も認められる。

受賞者の言葉

岡田 仁志氏

わたしが電子決済の研究を始めた1995年ごろは、世界各地で関連の実証実験が行き詰まっていた時期であった。しかしわたしは、人間はさまざまなリスクを乗り越える力を持っていると信じて、研究にあえてチャレンジした。今や誰もが、携帯電話で電子マネーを使うようになった。一方、東アジア・東南アジアの国々は、ことば、文化、制度が異なるため、リスクを乗り越える方法も異なる。日本が、電子商取引のさまざまなリスクを乗り越えてきた経験を、今度は彼らと共有する時代がやってきたのだ。

奨励賞モバイル音声対話処理システム(AssisTra:京都観光コンシェルジュ)の開発

独立行政法人情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所

【グループ代表】
音声コミュニケーション研究室長
柏岡 秀紀(カシオカ ヒデキ)氏

ユニバーサルコミュニケーション研究所所長 木俵 豊(キダワラ ユタカ)氏
ユニバーサルコミュニケーション研究所 主任研究員 堀 智織(ホリ チオリ)氏
ユニバーサルコミュニケーション研究所 研究員 翠 輝久(ミス テルヒサ)氏

授賞概要

柏岡氏を代表とするグループ4名は、音声認識、音声合成などの技術を結集して、モバイル端末からの双方向対話システムを開発。高度な音声対話処理システムをベースにした京都観光コンシェルジェ・システムを構築した。認識語彙数を標準的な数千語彙から数百万語彙へと飛躍的に増大させて、利用者の広範囲な情報要求へ的確かつ迅速に応える機能を実現している。さらに利用実験を通じて、ユーザーの選好度がシステムとの相互作用を通じて変化するプロセスを、マルコフ過程として説明・モデル化した。

授賞理由

柏岡氏を代表とするグループ4名は、音声認識、音声合成を中核とする音声対話処理に必要な高度な技術を結集し、モバイル端末からの双方向対話システムを開発した。

柏岡氏らが、利用者の広範囲な情報要求に的確かつ迅速に応えるため、認識語彙数を標準的な数千語彙から数百万語彙へと飛躍的に増大させ、高度な音声対話処理システムをベースに、京都観光コンシェルジュ・システムを構築した点を高く評価したい。

現在、一般に利用可能なsiriや「しゃべってコンシェル」などの音声対話処理システムが、利用者の短く簡潔な情報要求に応える機能であるのに対し、柏岡氏らのシステムでは、より複雑な情報要求にも対応可能な高度な機能の実現が可能となっている。また、現行のシステムに先駆けて、早期から音声対話システムを実働させた点も評価すべきと考える。柏岡氏らは研究をさらに進めて、多数のユーザーによる利用実験を行ない、ユーザーの知識度、選好度などを統計的に処理し、それらがシステムとの相互作用を通じて変化するプロセスをマルコフ過程として説明し、「ユーザー・モデル」を仮構してみせた。また、メンバーそれぞれが研究成果を学会や行政関連委員会などで活発に報告・活動しており、今後の進展によって、さまざまなデバイスへの導入が期待される。

受賞者の言葉

柏岡 秀紀氏

インターネット上の膨大な情報へアクセスする手段に平等性を持たせることは重要だ。音声対話処理は、機械操作が苦手な人でも、必要な情報を気軽に入手できるようにする技術として大きな意味がある。これからはスマートフォンのみならず、多様な端末を使って多様な場所から利用できるようにしたい。また、質問と答えは人それぞれ異なるものであり、この「個人差の研究」には今後も精進していく。なお、代表者として4名の名前を挙げたが、実際には研究室全員が一丸となって取り組んだ成果である。

羽鳥 光俊先生 選考委員長 東京大学名誉教授

10周年に寄せて

羽鳥 光俊先生
選考委員長 東京大学名誉教授

10周年、おめでとうございます。NTTドコモ創立10周年を記念し、2002年、モバイル・コミュニケーション・ファンドが設立され、その第一の事業として、ドコモ・モバイル・サイエンス賞が創設されました。

情報通信技術・移動通信技術の発達は、いつでもどこでも誰とでも、音声通信・データ通信を可能にし、人々の生活・活動に多大な恩恵をもたらしました。また、政治、経済、文化などのグローバル化の促進にも大きく貢献しています。技術的、科学的側面のみならず、社会科学的側面からの発展が求められ、次代を切り開く意欲的な若手研究者・人材の育成が求められました。そうした社会的ニーズに応えるべく、本賞が創設され、10周年を迎えました。

(1)先端技術部門、(2)基礎科学部門、(3)社会科学部門の3部門に対し、毎年、50歳未満の若手研究者から寄せられた研究成果、論文、業績を審査してまいりました。各部門ごとの審査結果は、理事長にも陪席いただき、全委員10名で構成する選考委員会で審議され、受賞者が決定いたします。

創設から10年間の受賞者は、グループ受賞を含め、34件・43名に上ります。情報化社会の進展に伴い、次世代を担う若手研究者の皆様への期待は、一層大きくなっていると思われます。歴代受賞者に改めてお慶びを申し上げるとともに、ご活躍を祈念申し上げます。

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