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第23回受賞者 野村様のインタビュー
野村 政宏(ノムラ マサヒロ)氏

東京大学 生産技術研究所 教授
「熱フォノンエンジニアリングの先導的研究」で、第23回 ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門 優秀賞を受賞
野村政宏先生(東京大学 生産技術研究所 教授)は、「熱フォノンエンジニアリングの先導的研究」で、第23回 ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門 優秀賞を受賞されました。
熱に指向性を付与し、これを利用して熱流制御を行うというご研究は、先端半導体の高性能化で深刻化している放熱問題の緩和につながるものと期待されています。
どのように自身のご研究を進めてこられたか、応募に至るきっかけなどを伺いました。
第23回ドコモ・モバイル・サイエンス賞基礎科学部門優秀賞の受賞、誠におめでとうございます。今回応募されたきっかけをお聞かせください。
推薦していただいた荒川泰彦先生(東京大学特任教授)から応募を勧めていただきました。なかなか大きな賞なので、私が受賞できるのかという思いもありましたが、先生に背中を押していただいて応募しました。大きな賞というのは、「ドコモ」を冠しているということもありますし、通信関係のトップ研究者が受賞しているということです。私の研究は基礎研究ですし、また通信に直接関わらない「熱」をテーマとしています。ちょっと違うのかなと思いつつも、これから通信端末の中でも重要性が増すということで評価していただけるかもしれないと思い、応募しました。
賞の存在自体は、東京大学生産技術研究所などの先輩にあたる先生方が受賞されていたので以前から知っていました。
荒川先生からお話があるまで、ご自身で応募しようということではなかったのですね。
そうですね。私たちも日々忙殺されており、申請書を書く時間があるだろうか?という気持ちになるのですが、恩義のある先生から推薦のお話を頂き、応募してみようか...となりました。「賞を取りに行くぞ!」という研究者はどちらかというと少ないと思います。コツコツといい研究をされている方はたくさんいて、そういう方は周囲の方が背中を押して出てこられる側面もあるかなと思います。
今回、半導体熱制御技術の研究で受賞なさいましたが、元々は光の研究をされていて、その手法などを熱の研究に応用されたとのことでした。熱の研究へ向かわれるきっかけは何だったのでしょうか。
ありがとうございます。そこが私の研究者としての重要なポイントです。私は2010年に研究室をいただきました。それまで光や電子に関係する研究をしていましたが、新しく誕生するラボで単に同じことを続けていていけば良いかというと、必ずしもそうではないと思います。研究者人生があと30年以上残っていて、同じ分野に留まるよりは、他の分野を見てみたうえで後々インテグレートできるよう、幅を広げる方向に行った方がいいだろうという判断をして、これまで行ったことのない世界に行こうと思ったのがスタート地点です。
じゃあ何をやろうかと思ったとき、将来必ず社会で重要な分野は何かと考えました。光や電子はすごくテクノロジーが成熟していてきらびやかな分野だった。しかし、ここから小型化がさらに進んできて熱が問題になるぞと皆予見している一方で、あまり研究が進んでいなかったので、10年後は絶対「来る」と思いました。また、ちょうどテーマを考えていた折、2011年に東日本大震災があり、エネルギーは非常に重要だとも思いました。熱は、被災しても入手しやすい木材を燃やせば得られる、とても使い勝手の良いエネルギーです。ある物を燃やして電気を作って、スマートフォンが充電できる。熱を電気に変えるテクノロジーはもしもの時に非常に重要になると思いました。砂漠に電線を引こうとすると大変ですが、砂漠のパイプラインとかにポンと設置するだけでずっと動いてくれる、そういうものが社会に浸透する、という未来像のもとにやってきた感じです。
素晴らしいですね。取り組んでいる方は少なかったのですね。
フォノンの研究者数は、光や電子の研究者数と比べると一桁以上少ないです。
受賞のお言葉の中でも、地味な研究と仰っていましたが、研究開始から10年以上経ってもあまり状況は変わっていないのでしょうか?
研究者は増えてはいると思います。2016年あたりから、ナノスケールの熱に関する文部科学省の戦略目標が立ったり、JSTでファンドが立ち上がったりして資金も入ってきて、研究者の数は増えました。やはり光・電子デバイスが目立っていて、産業も桁違いに大きいですから、研究者は自然とそちらに行って、比較すればまだまだ少ないのですが、電子デバイスの人たちが、放熱をうまくデザインしないと自分たちのデバイスが思うように動かせない、と熱設計を重視することでお声がかかるようになり、共同研究が行われる状況になってきています。
学会でフォノンエンジニアリングの研究者団体を立ち上げられた実績もありますが、今の流れにやはり関係したものでしょうか。
そうですね。自分の研究をどこで発表しようかと考えたときに、当時、いろんな学会にセッションがありましたが、小規模で、かつ散在していた。材料の人たちはここにいる、デバイスの人たちはあそこにいる、でも皆で集まって議論する場が少ないのではないかと気付いて、母体が大きな応用物理学会に自分でセッションを作ろうと思い、仲間の先生方とセッションを立ち上げました。学会では、皆話したいんだけれどもプレゼンがメインなので、短い休憩時間に少し話ができるだけ。これはもう話す場を作らなければと思って、学会のセッションとは別に研究会を作りました。泊りがけの合宿、皆で飲みながら翌朝まで話すという研究会を作りたくて、作ったら研究者や学生が嬉々として集まってきて、ネットワークを作ってバーチャル研究所のようなものを作ろうとまとまっていった。そこで何が嬉しいかというと、文科省の戦略目標にしたいであるとか、研究資金をこのコミュニティに呼び込んで、この研究分野を盛り上げようという集団の新しい動き、個人ではできない動きができるようになります。そうやって皆で分野を盛り立ててきたという感じです。
受賞されてみて、ご自身で振り返ってみて何かポイントになったと思われることはありますでしょうか。もちろん、授賞理由は発表されているのですが、ご自身の感触としてです。
研究成果が高く評価されたということはあると思うのですが、先ほど述べたような、「ないから作って、作ったら人が集まって、分野が盛り上がってきた」という動きは、学術界では非常に価値のあることと思っています。研究者は日々の研究に没頭するのは得意ですが、新しい動きをするとか集団を作ることが不得意な場合があります。ないと困ると多くの人が思いながら、形にできていなかったところを作ったことを評価していただけたのではないかと思います。あとは、異分野経験を持ち込んだことで、これまでに全くなかった視点で新しい学術分野を作れた、もしくは学術体系を整理できたことも、伝熱工学の中では価値のある仕事ができたかなと思います。というのは、光の分野から熱の分野に来る人はほとんどいないんですね。私の強みは光学の研究者として伝熱を眺めたときにどう見えたかを伝えて、光学の分野では当たり前ではあるけれどこの分野にはないものを作る、もしくは概念を生み出すというところを高く評価いただいたのかなと思っています。
以前からそういうところが得意であるとか、ご経験などをお持ちですか?
そうですね...小学生のころは、自分で遊びを発明して他の子を巻き込んで、こういうルールで遊んでみたら面白そうだぞ、というガキ大将的なことをしていました。しばらく遊んでみて、遊びにならないというところは変えて、とか。今、研究所や大学運営にも関わるようになって「こんなルールおかしいよね、皆で変えない?」と提案することと結局同じなのではないか、と思っています。今ある仕組みを変えられたらいいのに、と思うところを行動につなげられる点は小学生時代から続いているのかな、という気がしました。中高時代も校庭で良く遊んでいて、そこでもこういうルールで遊ぼうといっていました。あと、既存の集団に入って上に登っていくより、自分で作れば自分の楽しい場ができるという思いが強くて、自分で作ってしまえ、という意識は強かったのかもしれません。そういったところと、自然科学、特に物理学への強い関心、私の興味と性質をじっくり見定めて伸ばしてくれた親のサポートなど、様々な要因があって今日まで来たと思います。
ありがとうございます。最後に、来年・次回応募しようと思う方、この賞は知っているが、自分は果たしてどうだろうか?と考えているような中堅・若手の研究者に向けて、一言お願いできますでしょうか。
研究と同じで、挑戦あるのみ!ぜひ応募して下さい。