鳥澤氏らは、数10億ページにも及ぶWeb上の日本語テキストを利用して、様々な質問に回答する大規模Web情報分析システムWISDOM Xと、対災害SNS情報分析システムDISAANAを開発するとともに、誰もが利用できるようにWeb上で一般公開している。
WISDOM Xは、出来事間の因果関係、文間の同義や矛盾を認識する意味処理技術、仮説推論技術などを統合し、Web数10億ページを数百台の計算機で解析して、将来起こり得る出来事を尋ねる「どうなる?」型の質問、ものごとの理由を問う「なぜ?」型の質問を含め、様々な質問に回答するだけでなく、さらに仮説まで生成する世界初のシステムである。DISAANAは、WISDOM Xの技術を利用し、「帰宅難民はどこ?」という質問を入力すると、回答だけでなくデマ情報特定の支援も行う技術であり、スマートフォンでも利用可能である。
今後は、社会問題解決、研究開発プラン、観光旅行プランなど、さまざまな場面に活用できるよう、プランや仮説、リスク等が利用者の求める形でまとめられて提示される基盤となることが期待される。
乾氏らは、大規模言語データから広範な言語知識・世界知識を自動獲得し、この大規模知識データベース上での推論に耐える世界最高速の仮説推論方式を開発した。さらに、ネット情報の信頼性分析という重要課題に応用して、東日本大震災後のデマ・誤情報の大規模解析、農産物風評被害の大規模データ解析などに展開した。
仮説推論方式は整数線形計画法を応用した画期的なもので、これによって米国の従来システムより1万倍以上高速に動作する世界最高速の仮説推論システムを実現し、世界で初めて仮説推論の機械学習を実現した。これらはオープンソースとして公開されており、新規性・有用性とも高く評価できる。今後本技術の進展によりサイバー空間と実空間に対する人間の理解を支援し、テキストビッグデータの活用基盤に発展することが期待される。
奨励賞ソーシャル・ビッグデータを用いた観光・防災政策・意思決定支援社会システム
新領域融合研究センター
融合プロジェクト特任研究員 一藤 裕氏
授賞理由
災害復旧等の緊急時においては、政策決定をサポートするために、被害状況や復興度合い、復興スピード等の把握が課題となっていた。一藤氏は、大規模データとリアルタイム情報を駆使することにより、これまで不可能であった複雑要因の構造分析を可能とし、被災地での復旧状況を推定し可視化する意思決定支援システムを開発した。
また、平常時と緊急時の差分を評価するため、復興力評価指標(RI)を提案し、科学的根拠を持つデータに基づいた政策・意思決定の有用性を実証的に明らかにした点を評価したい。
災害等の緊急時に情報通信が果たす役割は極めて大きいが、先の東日本大震災では、緊急時にのみ利用されるシステムが、実際には運用できなかった例も多い。一藤氏が開発した、平常時の観光支援、緊急時の防災・災害政策支援を両立する社会システムの実現は、政府や自治体の緊急時の政策決定に重要な意味を持つ。
今後、こうした研究成果を社会的に活用できれば、政策的意思決定のみならず、企業や教育等、多面的なイノベーションが期待される。
受賞者の言葉
ソーシャル・ビッグデータを使って、政策決定を支援したい。その一歩として、宿泊施設のWeb予約データを収集して、客室稼働率の実データを逆推計するシステムを開発した。さらに、平常時の観光支援と、緊急時の防災・災害政策支援を両立させる社会システムを構想し、政府・自治体等へ提案している。