有機半導体の「大面積化の容易さ」と「曲げやすさ」という特長を保ちつつ、伝導特性を飛躍的に高める新技術を開拓。電子人工皮膚やワイヤレス電力伝送シートなどの新シート型デバイスを有機トランジスタで実現した。加えて、有機トランジスタと電子機能性材料を集積化する新手法を開拓し、新たな応用分野を拓いた。論文発表も多く、2009年には、IEEE Transactions on Electron Devicesに掲載された論文のうち毎年1編に与えられる最優秀論文賞を受賞。2009年にはデバイス関連最高権威学会IEDMにて基調講演を行うなど、学問的貢献の大きさは明らかである。その研究成果は、人間との親和性の高い新しいフレキシブルエレクトロニクスの分野を創造し、無機半導体とは異なる特徴を有する様々な応用が期待され、ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。
奨励賞情報通信技術と社会的寛容性に関する社会心理学的実証研究
小林 哲郎(コバヤシ テツロウ)氏
授賞理由
価値観の多様化と異質化、孤立化の進む社会におけるICT利用の効果について、実証的な社会調査データや被験者実験、計算機シミュレーションを用いて検証し、どのようなICT利用が、異質な他者との協力関係を促進し、「寛容な社会」基盤として機能するのかを解析した。理論的仮説を設定して、「社会的寛容性」「同質性」「異質性」などの概念を明確化し、測定可能な形に変数化し、社会心理学の調査分析技法を駆使して成果をあげている。社会心理学分野における実証研究の好例として評価できる。 また、ICTの更なる拡大・発展やケータイあるいはソーシャル・メディアの発達・普及が、今後の社会制度とコミュニケーション・パターンに与えるインパクトについての展望も与えている。従来の諸論文を理論的に整理して、一書にまとめた功績を評価する。
奨励賞情報通信技術導入の経済効果に関する実証研究
篠﨑 彰彦(シノザキ アキヒコ)氏
授賞理由
ICTの導入が日本企業の生産性にどのような影響を及ぼしているのかを、成長会計モデルや生産関数モデルのマクロ実証分析により明らかにした。精密で手堅い統計手法や分析結果は、今後の企業変革の方向と、さらなるICT 導入のための重要な立脚点になると思われる。ICTへの投資は、先進社会では日本が一番成長率が低く、投資効果が十分ではないというのが通説であるが、それを堅実な計量経済学の手法で実証してみせた。今後の国際比較研究や、将来に向けた政策提言に期待したい。