受賞者・授賞式Winner / Ceremony
第13回(2014年)
情報通信技術・移動通信技術の発展と若手研究者育成を目的とする「第13回ドコモ・モバイル・サイエンス賞」の授賞式を2014年10月17日、ANAインターコンチネンタルホテル東京で開催しました。今回は28件の応募があり、選考委員会(選考委員長:東京大学名誉教授・羽鳥光俊氏)での厳正かつ公平な審査の結果、先端技術部門で優秀賞1件、基礎科学部門で優秀賞1件、社会科学部門で奨励賞2件、合計4件・5名が選ばれました。授賞式には、文部科学省 研究振興局長 常盤豊様、NTTドコモ代表取締役社長 加藤薰様をはじめ、多くのご来賓にご出席いただきました。
奨励賞音声つぶやきによる医療・介護サービス空間のコミュニケーション革新に関する研究
株式会社東芝 ヘルスケア社 参事 鳥居 健太郎(トリイ ケンタロウ)氏
株式会社東芝 研究開発センター 研究主務 山本 高敬(ヤマモト タカノリ)氏
授賞概要
鳥居氏らは、独立行政法人科学技術振興機構の社会技術研究開発センターによる問題解決型サービス科学研究プログラムのもと、音声つぶやきとテキストマイニングを利用し、記録や双方向の情報共有を実現するコミュニケーションシステムを開発した。医療・介護スタッフはスマートフォンに音声でつぶやくだけで、手がふさがりがちなケア中にも記録と連絡の両方が可能となる。本技術は、ケアの改善に役立つとともに、「安心・安全」が求められる設備保守等さまざまな分野への応用が期待できる。
授賞理由
鳥居氏らは、独立行政法人科学技術振興機構の社会技術研究開発センターによる問題解決型サービス科学研究プログラムのもと、音声つぶやきとテキストマイニングを利用し、記録や双方向の情報共有を実現するコミュニケーションシステムを開発した。スタッフはヘッドセットを着用してつぶやくだけで、システムが自動的に発話中の単語や位置などをタグとして音声とともに記録し、適切な範囲の職員に配信する。これにより、手がふさがりがちなケア中にも記録と連絡の両方が可能となり、介護施設における実験では、従来は記録されずに見過ごされてきた細かな記録が補足され、ケアの改善に役立つことが確認されている。また、つぶやきの配信により、他職員の状況把握や応援依頼も可能となった点も評価したい。
このシステムが社会に普及すれば、医療・介護現場で必要とされている多職種間情報連携への貢献が期待されるだけでなく、「安心・安全」を必須要件とする設備保守等さまざまな分野への活用、応用が期待できることから、社会的インパクトは大きいと考えられる。
受賞者の言葉
人が人に対してサービスを行う現場では、人にしか察知できない細やかな観察や気づきがある。両手がふさがっているケアの現場でも気軽に使えるスマートフォン型のシステムの開発は、こうした貴重な情報を活用して、ケアの品質を高めるための大きな可能性を開くと思う。われわれの研究では、医療・介護の現場における「簡単便利」に徹底的にこだわっている。また情報が流通しやすくなると、今度は情報の洪水が発生する。真のサービス品質向上に役立つ情報のあり方も追求していきたい。
奨励賞群衆の批判的思考を活用するICTデザインの認知科学的研究
田中 優子 (タナカ ユウコ)氏
授賞概要
東日本大震災では、不特定多数の一般ユーザーが発信する情報によって多くの人命が守られた一方、デマが拡散して混乱を招いた。田中氏は、情報提示順序を工夫し、他者の批判的思考を先に提示することで、後続デマへの心理的評価が低下し、デマ拡散行動を抑制できることを実証的に明らかにした。情報の信頼性を確保する科学的方法論が確立されれば、風評等の社会問題解決への貢献が期待される。また、批判的思考を活用するICTデザインは、クラウドサービスでの商用化も期待される。
授賞理由
災害等の緊急時に情報通信が果たす役割は極めて大きい。先の東日本大震災では、不特定多数の一般ユーザーが発信する情報によって多くの人命が守られた一方、デマや風評が拡散し社会的混乱を招いた。田中氏は、情報提示順序を工夫し、他者の批判的思考を先に提示することで、後続のデマへの心理的評価が低下し、デマの拡散行動が抑制できることを実証的に明らかにした。実際に東日本大震災時にSNS上で伝播したデマを用いて、通常のデザインの場合とデマを低下させるICTデザインの場合のデマの拡散行動を比較分析し、流通する情報の質を高める上でICTデザインが大きく寄与できる可能性を示した点を評価したい。
情報の信頼性を確保する科学的方法論が確立されれば、風評等の社会問題解決への貢献が期待される。また、批判的思考を活用するICTデザインを、クラウドから創造的発想を抽出する手法として応用・開発したクラウドソーシング・システムは、商用化への取り組みもなされていることから、ビジネスへの貢献が期待される。
受賞者の言葉
「批判的思考」とは、根拠や基準などに基づいて情報を吟味することであり、情報化社会に不可欠な思考のひとつである。しかし個人が、膨大な情報をすべて吟味するのは困難だ。そこで、モバイルテクノロジーを通じてつながっている他者の批判的なアイデアを活用できるのではないかと考え、その効果を実証したのが今回の研究である。今後も、ICTデザインや検索システムのアルゴリズムを工夫することでわたしたちの認知プロセスをより良くし、ひいては情報の質を向上させる研究に取り組んでいく。