齊藤氏は、マルチコア技術とマルチモード技術の組み合わせにより、光ファイバの通信容量を極限まで増加することに成功した。特に、マルチコアファイバにおけるコア間干渉を低減する技術、及びマルチモードファイバ伝送に必須である複数モードの多重技術を考案し、空間分割多重光ファイバ通信技術の基礎を確立した。通信量の増大に伴い、今後20年間に光通信システムの伝送容量を1000倍以上増強する必要があるともされてきたが従来技術では限界があったところ、齊藤氏の研究は1000倍以上の可能性を示し、大きなインパクトを与えた。
平面光波回路(PLC)に基づくモード分割多重伝送のための合分波器は、世界的にもオリジナリティのあるアイデアである。また、元来は長距離幹線の伝送容量を増やす技術であるが、短距離のデータセンタ間通信やチップ間の超短距離通信にも波及効果をもたらし、産業・社会へのインパクトも大きい。Covid-19の影響下で通信の需要が更に増加している現在、非常に注目されるべき成果である。
また齊藤氏は、電子情報通信学会 EXAT研究会副委員長、光ファイバ通信分野の主要国際会議のチェアを務めるなど、光ファイバ通信の分野で世界的に第一人者として認められている。
優秀賞情報通信分野における法制度設計およびその政策への応用
授賞理由
林氏は、情報通信市場における競争政策、またその基礎となる法制度の研究に取り組んできた。海外の巨大プラットフォーム台頭、それらに対する規制など、国際的に様々な動きがあり、現在大いに注目される分野である。
林氏は、情報通信に関連する法分野の大半にわたって広範・膨大な業績を挙げており高い評価を得ている。一例として、電気通信事業法の改正経緯をオーラルヒストリーの手法を用いて調査し精緻な分析を行った『オーラルヒストリー電気通信事業法』は、史料として非常に価値ある成果である。一方、AI・ビッグデータ時代の競争法のあり方に関する論文では、日本における議論状況を正確に紹介しつつ、先端的情報通信技術の台頭する現代の競争法の役割につき論じ、競争法分野の国際的トップジャーナルに掲載された。
情報通信政策の実証的評価の意味で、経済学等、他分野の研究者との共同研究にも積極的である。学問的功績に留まらず、情報通信政策への関与、各種提言、学会活動等を通じた社会貢献も多大である。
受賞の言葉
情報通信法制研究は、学際的、国際的、かつ先端的な学問領域であり、私自身もこれまで、主に競争法・政策の観点から、多くの共同研究を通じて、情報通信そのものに限らず、プラットフォームやAI、知的財産の問題等、幅広く研究対象に取り上げてきた。今回、評価点の一つとして、電気通信事業法の歴史研究に関する業績にも光を当てていただいたことは、個別業法の制定史という非常に地味なテーマだけに、大変ありがたいと思っている。今回の受賞を励みに、さらに精進を重ねていきたい。