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ドコモ・モバイル・サイエンス賞

移動通信・情報通信の研究開発等の業績に対する褒賞事業

Winner / Ceremony

第12回(2013年)

第12回ドコモ・モバイル・サイエンス賞 授賞式

第12回ドコモ・モバイル・サイエンス賞授賞式を2013年10月18日、ANAインターコンチネンタルホテル東京で開催しました。 応募業績の中から、選考委員会での厳正な審査を経て、先端技術・基礎科学の2部門で優秀賞各1件、社会科学部門で奨励賞2件が選ばれました。 授賞式には、文部科学省 研究振興局 大臣官房審議官 山脇良雄様、NTTドコモ代表取締役副社長 岩﨑文夫様をはじめ、多くのご来賓にご出席いただきました。

先端技術部門の受賞記事です

優秀賞秘匿データを利活用できる次世代暗号技術の実用化への道を拓く先駆的研究

<グループ代表> 九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 教授
 高木 剛(タカギ ツヨシ)氏

株式会社富士通研究所 主任研究員 下山 武司(シモヤマ タケシ)氏

独立行政法人情報通信研究機構 研究員 篠原 直行(シノハラ ナオユキ)氏

九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 学術研究員 林 卓也(ハヤシ タクヤ)氏

授賞概要

高木氏らグループ4名は、解読に数十万年かかると見積もられていた923ビットのペアリング暗号を、わずか148日で解読して世界記録を樹立するとともに、これらの安全性評価の研究に基づき、以後20年は安全なペアリング暗号の実用化への道を拓いた。ペアリング暗号が実用化されれば、ユーザが自身のメールアドレスなどのIDを使って暗号化ができるなど、クラウド型情報サービスの安全性と利便性向上に大きく貢献すると期待される。

授賞理由

高木氏を中心とするグループ4名は、各人の専門である暗号理論、解読技術、整数論、計算機プログラミングを結集することで、解読に数十万年かかると見積もられていた923ビットのペアリング暗号を、わずか148日で解読するという世界記録を樹立するとともに、これらの安全性評価の研究に基づき、以後20年は安全なペアリング暗号の実用化への道を拓いた。

ペアリング暗号が実用化されれば、ユーザは自身のメールアドレスなどのIDを使って暗号化ができるだけでなく、暗号化されたままのデータの検索が行えるなど、クラウド型情報サービスの安全性と利便性向上、サービスの多様化が期待される。

メンバー各人が暗号実装の国際会議CHES2011など世界最高レベルのプログラム委員長、我が国の暗号標準化活動であるCRYPTRECの委員を務めるなど、国内外の暗号標準化活動や、標準化ならびに学術分野の発展にも貢献している。その成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞 先端技術部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。

受賞者の言葉

グループ代表 高木 剛(タカギ ツヨシ)氏 と他3名

次世代の暗号であるペアリング暗号の安全性解析に、株式会社富士通研究所、独立行政法人情報通信研究機構、九州大学という産官学が連携して、業界に先駆けて取り組んできた。ペアリング暗号は、秘匿データを暗号化したまま演算処理することができる画期的な技術である。今回の受賞を契機に、ペアリング暗号の安全性に対する産業界での理解が進み、実用化が加速すれば喜ばしい。

基礎科学部門の受賞記事です

優秀賞高品質AlGaN系半導体の結晶成長技術の開発と深紫外線LEDの先駆的研究

独立行政法人理化学研究所 主任研究員

平山 秀樹(ヒラヤマ ヒデキ)氏

授賞概要

平山氏は、波長が220-350mmの深紫外LED(発光ダイオード)を実現するうえで最も有望な材料系であるAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)系混晶半導体の結晶成長技術の開発を主導した。内部量子効率の飛躍的向上、電子注入効率の改善、ホール濃度の改善などを次々行い、世界に先駆けて実用レベルの高出力LEDを実現した。 短波長・高効率な深紫外LED、半導体レーザは、医療をはじめ、幅広い分野での応用が考えられ、実現が強く期待されてきた。この成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞基礎科学部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。

授賞理由

波長が220-350nmの深紫外LED(発光ダイオード)、半導体レーザは、殺菌や皮膚治療等の医療、高密度光記録レーザ、公害物質の高速分解・浄水、長寿命蛍光灯等の照明など、幅広い分野での応用が考えられ、その実現が強く期待されてきた。

平山氏は、深紫外発光素子を実現する上で最も有望な材料系であるAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)系混晶半導体の結晶成長技術の開発を主導し、世界に先駆けて短波長・高効率な深紫外LEDを実現した。 

具体的には、(1)サファイア基盤とAlGaN発光層の間に高品質なAlNバッファー層を設けることによる内部量子効率の飛躍的向上(2)多重量子障壁の導入による電子注入効率の改善(3)AlGaNへのIn(インジウム)混入効果によるホール濃度の改善(4)実用レベル高出力LEDの実現である。

学問的貢献も大きく、開発した技術を140件以上の原著論文として発表するとともに、国内外で関連特許120件以上を申請。その成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。

受賞者の言葉

平山 秀樹 氏

深紫外線は、波長が非常に短いため、地上には存在しなかった光である。当初は、実現不可能な技術と考えられていたが、AlGaN系混晶半導体の結晶成長技術の開発などにより、実用レベルの深紫外LEDを世界で初めて作ることに成功した。深紫外線は、生命のDNAに直接作用して殺菌に大きな効果があり、家庭用冷蔵庫、空気清浄器をはじめ、さまざまな応用が期待される。今後は、まだ実現されていない深紫外半導体レーザーの実現に取り組んでいきたい。

社会科学部門の受賞記事です

奨励賞ウェブマイニングによる社会観測とその活用に関する研究

東京大学 大学院工学系研究科 准教授

松尾 豊(マツオ ユタカ)氏

授賞概要

松尾氏は、Twitterなど時々刻々発信される膨大な情報を活用して、人物を対象とした関係抽出技術やソーシャル・メディアから知識を取得する手 法を開発した。そして、選挙予測、株式市場の分析・予測、地震発生検知など、独創的なサービスを生み出した。ウェブ上の情報を活用した社会分析、社会問題解決、個人や地域の問題解決などは今後の重要な研究テーマであり、実用化への取り組みもなされており、ビジネスへの貢献が期待される。

授賞理由

自然言語処理や人工知能の学術分野では、意味理解の研究が長年行われてきた。たとえば、ブログ投稿内容の解析などが試みられてきた。松尾氏は、Twitterなど時々刻々発信される膨大な情報を活用して、人物を対象とした関係抽出技術やソーシャル・メディアから知識を取得する手法を開発した。そして、選挙予測、株式市場の分析・予測、さらには地震発生検知など、意思決定、予測、予防を視野に入れた新しい価値を提供する独創的なサービスを生み出した。

人工知能学会が支援した"SPYSEE"は、広く社会でも認められている。松尾氏は、2007年以降20件を超えるJournal論文を発表。ソーシャル・メディアからの社会的動向の観測に関する研究として、「ソーシャルセンサ」という概念を提案して注目されている。Twitterから地震の発生とその震源地を特定する技術を確立した論文は、3年間で550回以上の引用回数を得て、国際的にも大きく注目され、学術的貢献を果たしている。

ウェブ上の情報を活用した社会分析、社会問題解決、個人や地域の問題解決などは今後の重要な研究テーマであり、実用化への取り組みもなされていることから、ビジネスへの貢献が期待される。

受賞者の言葉

松尾 豊氏

スマートフォンが日常生活に入り込み、ウェブと生活との距離が限りなく近づいている今日だからこそ、ソーシャル・メディアで行き交う情報から社会の動きをある種の「パターン」として把握することに道を拓いた今回の研究成果は意義深い。わたしの専門は人工知能であり、今後は人工知能の知的処理とウェブ情報分析を組み合わせて、新しい情報産業を日本から創出するような研究をしたい。

奨励賞ナレッジ・マネジメントにおけるICTとモバイル・メディアの利活用と有効性に関する実証研究

東京工業大学 大学院社会理工学研究科 助教授

Loo Geok PEE (ルー ギョク ピー)氏

授賞概要

PEE氏は、民間企業と公共団体において、ナレッジ・マネジメント導入の効果を阻害する要因の違いに着目して仮説を立て、多数の「組織」調査に基づいて実証的に比較分析した。民間企業、公共団体など、組織の形態や構造が異なれば、利活用も異なることへの示唆は意義が大きい。また、モバイル・メディアなどのICT利活用がナレッジ・マネジメント促進へ有効であることを示して、新しいナレッジ・マネジメント手法の提案や開発を促進した。

授賞理由

ナレッジ・マネジメントは、知識社会の進展に重要な意義をもつが、モバイル・メディアなどのICTが及ぼす変化に着目した研究は、これまでほとんど見られなかった。PEE氏は、民間企業と公共団体において、ナレッジ・マネジメント導入の効果を阻害する要因の違いに着目して仮説を立て、多数の「組織」調査にもとづいて実証的に比較分析した。

方法として、影響を与える諸要因あるいは要素を仮説として挙げ、それらの要素に関連した設問を設定し、対象となる組織と団体に対して実施し、結果を分析して、プラス、マイナスの要因となり得る要素が何であるかを検証している。潜在的な利用者が、何を懸念し、何を許容できるかを明確にして、リスクの負の影響を軽減することに結びつけようとしている。利用者の感覚とも乖離しない調査結果を、説得的に提示している。

組織の形態や構造が異なれば、利活用も異なるのは当然であり、民間企業、公共団体、グループ、個人においてのナレッジ・マネジメントの促進についての示唆は大きい。ナレッジ・マネジメント分野がより一般化・汎用化されることに貢献するものと考えられる。また、ICT利活用の有効性が示されたことによって、より効果的な手法、ICTによるナレッジ・マネジメント手法の提案や開発を促進し、技術分野と人文・社会科学のどちらにも大きく寄与する発展が期待される。

受賞者の言葉

Loo Geok PEE 氏

ナレッジ・マネジメントの効率改善にICT利活用は有効である。わたしの研究では一歩踏み込み、信頼できる組織や人によってICTが補完されたとき、より大きな成果が上がることを経験的実証として示した。ICTと他の手段との相互関係をマネジメントすることが重要なのである。今後は、空間と時間の制約を超えたナレッジの保持・共有に、モバイル技術をいかに役立たせるかを研究する計画だ。

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