波長が220-350nmの深紫外LED(発光ダイオード)、半導体レーザは、殺菌や皮膚治療等の医療、高密度光記録レーザ、公害物質の高速分解・浄水、長寿命蛍光灯等の照明など、幅広い分野での応用が考えられ、その実現が強く期待されてきた。
平山氏は、深紫外発光素子を実現する上で最も有望な材料系であるAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)系混晶半導体の結晶成長技術の開発を主導し、世界に先駆けて短波長・高効率な深紫外LEDを実現した。
具体的には、(1)サファイア基盤とAlGaN発光層の間に高品質なAlNバッファー層を設けることによる内部量子効率の飛躍的向上(2)多重量子障壁の導入による電子注入効率の改善(3)AlGaNへのIn(インジウム)混入効果によるホール濃度の改善(4)実用レベル高出力LEDの実現である。
学問的貢献も大きく、開発した技術を140件以上の原著論文として発表するとともに、国内外で関連特許120件以上を申請。その成果は、ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門の優秀賞にふさわしいと考えられる。
奨励賞ウェブマイニングによる社会観測とその活用に関する研究
松尾 豊(マツオ ユタカ)氏
授賞概要
松尾氏は、Twitterなど時々刻々発信される膨大な情報を活用して、人物を対象とした関係抽出技術やソーシャル・メディアから知識を取得する手 法を開発した。そして、選挙予測、株式市場の分析・予測、地震発生検知など、独創的なサービスを生み出した。ウェブ上の情報を活用した社会分析、社会問題解決、個人や地域の問題解決などは今後の重要な研究テーマであり、実用化への取り組みもなされており、ビジネスへの貢献が期待される。
授賞理由
自然言語処理や人工知能の学術分野では、意味理解の研究が長年行われてきた。たとえば、ブログ投稿内容の解析などが試みられてきた。松尾氏は、Twitterなど時々刻々発信される膨大な情報を活用して、人物を対象とした関係抽出技術やソーシャル・メディアから知識を取得する手法を開発した。そして、選挙予測、株式市場の分析・予測、さらには地震発生検知など、意思決定、予測、予防を視野に入れた新しい価値を提供する独創的なサービスを生み出した。
人工知能学会が支援した"SPYSEE"は、広く社会でも認められている。松尾氏は、2007年以降20件を超えるJournal論文を発表。ソーシャル・メディアからの社会的動向の観測に関する研究として、「ソーシャルセンサ」という概念を提案して注目されている。Twitterから地震の発生とその震源地を特定する技術を確立した論文は、3年間で550回以上の引用回数を得て、国際的にも大きく注目され、学術的貢献を果たしている。
ウェブ上の情報を活用した社会分析、社会問題解決、個人や地域の問題解決などは今後の重要な研究テーマであり、実用化への取り組みもなされていることから、ビジネスへの貢献が期待される。
受賞者の言葉
スマートフォンが日常生活に入り込み、ウェブと生活との距離が限りなく近づいている今日だからこそ、ソーシャル・メディアで行き交う情報から社会の動きをある種の「パターン」として把握することに道を拓いた今回の研究成果は意義深い。わたしの専門は人工知能であり、今後は人工知能の知的処理とウェブ情報分析を組み合わせて、新しい情報産業を日本から創出するような研究をしたい。
奨励賞ナレッジ・マネジメントにおけるICTとモバイル・メディアの利活用と有効性に関する実証研究
Loo Geok PEE (ルー ギョク ピー)氏
授賞概要
PEE氏は、民間企業と公共団体において、ナレッジ・マネジメント導入の効果を阻害する要因の違いに着目して仮説を立て、多数の「組織」調査に基づいて実証的に比較分析した。民間企業、公共団体など、組織の形態や構造が異なれば、利活用も異なることへの示唆は意義が大きい。また、モバイル・メディアなどのICT利活用がナレッジ・マネジメント促進へ有効であることを示して、新しいナレッジ・マネジメント手法の提案や開発を促進した。
授賞理由
ナレッジ・マネジメントは、知識社会の進展に重要な意義をもつが、モバイル・メディアなどのICTが及ぼす変化に着目した研究は、これまでほとんど見られなかった。PEE氏は、民間企業と公共団体において、ナレッジ・マネジメント導入の効果を阻害する要因の違いに着目して仮説を立て、多数の「組織」調査にもとづいて実証的に比較分析した。
方法として、影響を与える諸要因あるいは要素を仮説として挙げ、それらの要素に関連した設問を設定し、対象となる組織と団体に対して実施し、結果を分析して、プラス、マイナスの要因となり得る要素が何であるかを検証している。潜在的な利用者が、何を懸念し、何を許容できるかを明確にして、リスクの負の影響を軽減することに結びつけようとしている。利用者の感覚とも乖離しない調査結果を、説得的に提示している。
組織の形態や構造が異なれば、利活用も異なるのは当然であり、民間企業、公共団体、グループ、個人においてのナレッジ・マネジメントの促進についての示唆は大きい。ナレッジ・マネジメント分野がより一般化・汎用化されることに貢献するものと考えられる。また、ICT利活用の有効性が示されたことによって、より効果的な手法、ICTによるナレッジ・マネジメント手法の提案や開発を促進し、技術分野と人文・社会科学のどちらにも大きく寄与する発展が期待される。
受賞者の言葉
ナレッジ・マネジメントの効率改善にICT利活用は有効である。わたしの研究では一歩踏み込み、信頼できる組織や人によってICTが補完されたとき、より大きな成果が上がることを経験的実証として示した。ICTと他の手段との相互関係をマネジメントすることが重要なのである。今後は、空間と時間の制約を超えたナレッジの保持・共有に、モバイル技術をいかに役立たせるかを研究する計画だ。